フィエゾレ



『失われた時を求めて』を読んでいたら、懐かしいフィエゾレのことが出てきた。もう何年前になるのだろうか。写真のファイルを見てみると、10年ちょっと前のようだ。

作品の中では、コンブレーの春と対比させて、イタリアの春を描いている。コンブレーの春は「まだ針のように尖った樹氷が肌を刺す」と書いているのに対して、フィエゾレは「百合やアネモネが野を覆っている」とされ、またフィレンツェは「アンジェリコの絵にあるような金色の背景」が街をまぶしく飾っているとしている。なんと美しい表現であろうか。

フィエゾレに行った最初の目的は、アメリカの建築家のが住んでいた家を見るためであった。フィエゾレへはフィレンツェからバスに乗って行った。小高い丘の上にある小さな町であった。

フィレンツェの街を見下ろす眺めの良い一角に、例の別荘はあった。多分この正面に見えている家のようだ。確証はないのだが、番地などからそう思われた。

受け売りであるが、フィエゾレは高級別荘地らしい。近隣には大きな門構えの豪壮な別荘が何軒もあった。写真をUPしようと思ったのだが、古い写真のためかできなかったのが残念である。

この年だったか、次の年だったか覚えていないのだが、フラ・アンジェリコの画を見たり、ゴッツォリの『東方三博士の行列』を見に、メディチ・リカルディ宮のマギ礼拝堂を訪れたりした。この礼拝堂はそれほど大きくはないが、壁に描かれたゴッツオリの壁画は見事だった。こんな素晴らしい礼拝堂を持てたらどんなに幸せであろうか。

拙著『「失われた時を求めて」における父親像』の中でも、カンポサントのアブラハムの仕草を分析するために、『東方三博士の行列』についても触れているので、興味がおありの方には是非読んでいただきたい。

いつかフィレンツェの郊外の古い小さな家で、ひと夏過ごすのが私の夢である。



フランス便り─文学・絵絣・建築

マルセル・プルーストをはじめとしたフランス文学便り 星谷美恵子 (Mieko HOSHIYA, Ph.D.)

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